研究の概要

研究の経緯

 私たちは、2005年からジャイロ発電を研究しています。スタートはJSTの補助金事業です。「戦略的創造研究推進事業 CREST、研究領域『先進的統合センシング技術』、研究課題『安心・安全のための移動体センシング技術』、2005年~2011年、研究代表者・佐藤知正」 その中で、2008年に、移動体の振動から電力を生成する振動発電機を開発しました(1)。ジャイロ発電機の1号機です。これはダイナビーにコイルと磁石を載せたもので、出力は0.1W以上です。しかし自転速度で決まる特定の振動でしか発電しないという欠点がありました。具体的には、入力振動と自転速度の周波数比が、トラック直径と自転軸直径の比に一致する必要があります。また、自転の初速度を手で与える必要があり、無人では動作しませんでした。その後、複数の欧米のベンチャーから類似の発電機が商品化されましたが、いずれも同様の問題があり、玩具のレベルでした。

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 2009年に、発電可能な振動周波数帯を広げるために、ダイナビーの過渡応答解析を行いました(2)。その結果、発電可能な振動周波数は、自転速度に対して、多少の幅をもつことが分かりました。振動と自転の周波数比が上記の直径比に近いと、自転速度が勝手に変化して、直径比に一致するのです。この安定領域の幅は、電磁ダンピングが小さいほど大きいことも分かりました。

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 2011年に、この原理に基づいて、電磁ダンピングを入力振動に応じて変化させる方法を発表しました(3)。電磁ダンピングが小さいほど安定しますが、発電量は小さくなります。そこで、振動と自転の周波数比が目標値と離れているときは電磁ダンピングを下げ、近いときは上げます。電磁ダンピングは、コイルを複数巻いておき、負荷に接続するコイル数を変化させて制御します。これで、安定範囲が広がりましたが、その効果はわずかでした。

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 2011年に、安定範囲を大幅に広げ、かつ、自転の起動も解決する。自己起動法を発表し ました(4)。これは、小さな蓄電池を備えており、発電機をモータとして作用させる方法です。回転開始時には、蓄電池からの電力でモータを起動します。また、入力振動に合わせて、モータで自転速度を変化させます。これまでは受動的な制御でしたが、これは発電電力を利用する能動的な制御です。これで、いかなる自転速度、いかなる入力振動でも、自転と発電が可能です。しかしこの方法にも欠点がありました。自転速度を変化させるのに必要な電力が大きいという問題でした。振動の変化が激しいと、発電量よりモータの消費電力が大きくなり、実効的に発電機として機能しなくなりました。

(4)

 2018年に、自己起動を発展させ、自転と発電のモータを分離する、モータ自転型発電機を発表しました(5)。ランダムな振動でも発電し、1.8Wを発電します。ダイナビーが特定振動でしか発電しない理由は、自転と歳差が転がりによって結合しているためです。入力振動の向きが反転すると、歳差が反転し、自転トルクが反転し、自転を減速するトルクが働いてしまうのです。もし、歳差と自転の間にラチェットを入れて、自転トルクを一方向にできれば、この問題は解決します。しかしラチェットは摩擦も寸法も大きく使えません。そこで、電気的にトルクを一方向とする方法を考案しました。基本は自己起動です。
ジャイロトルクは歳差方向に発生するので、歳差軸に発電機を取り付けて発電し、ダイオードブリッジで一方向に整流し、自転軸に取り付けた別のモータに入力します。この方法はすぐに思いついたのですが、実際に作ると、発電量が小さく、自転させられません。数年間の試行錯誤の結果、小径の歯車で歳差回転を増速し、小径のコアレスモータで発電すればよいことが分かりました。ダイナビー型では自転で発電したため、磁石の速度が速いのに対し、モータ自転型では歳差で発電するため、磁石の速度が1/50程度になってしまいます。増速歯車でこれは解決しますが、増速では慣性やガタの影響が大きく出るので、小径かつ高精度な歯車列が必要です。さらに、歳差は振動的な回転なので、モータも慣性能率が小さい必要がありました。あらゆるモータを試し、アダマンド並木精密のSCL18に100倍ギヤヘッドを付けたモータが十分な性能をもつことが分かりました。製作した発電機で、空調服も駆動できました。

(5)

 2019年に、モータ自転型発電機の発電電力のフィードバック方法を改良しました(6)。発電した電力で自転モータを回しますが、発電電圧が低く、自転モータの逆起電力が限界となって、自転速度が上がりません。FB回路を詳細に検討した結果、昇圧または降圧回路を入れることで回転数が上がり、かつ、昇圧比には、自転速度で決まる最適値が存在することが分かりました。発電電圧により自転と歳差の速度を測り、チョッパー型の昇圧回路のデューティー比をマイコンで制御する制御回路を製作しました。

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 2019年に、ダイナビー型を改良した、任意の振動で発電する摩擦自転型発電機を発表しました(7)。ダイナビーで滑り摩擦が生じる部分を玉軸受で受けるようにしたものです。入力振動が反転すると、歳差が反転しますが、同時に自転軸の転がり面も反転するようにして、摩擦による自転トルクを同一方向としました。ダイナビーでも瞬間的にはこのような反転が起こりますが、反転を繰り返すと自転が失速します。この原因が、反転時の滑り摩擦がジャイロトルクより大きいためであり、摩擦を極めて小さくすると、いくら反転しても失速しないことが分かりました。現在は、手のひらサイズで1W以上を発電しています。

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 2020年に、観測ブイに利用する、直径300mmのフライホイールを使った、摩擦自転型およびモータ自転型の発電機を製作しました。現在、商品化に協力して頂ける企業を探しています。

文献

  • (1) 石井 智裕, 後藤 裕治, 小川 達也, 保坂 寛:ジャイロ型振動発電機の研究,精密工学会誌,74,7, p.764-768, (2008)
  • (2) 吉川 覚, 岩崎 淳, 岸本 幹史, 保坂 寛, 佐々木 健:ジャイロ型振動発電機の過渡応答解析,精密工学会誌,76,2,p.238-242, (2010)
  • (3) 高橋智幸,岩崎淳,保坂寛 : ジャイロ型発電機の受動制御,日本ロボット学会誌 29, 8, p.661-666, (2011)
  • (4) Yohei Kamiya, Hiroshi Hosaka : Self Activation of the Gyroscopic Power Generator, Proc. ASME 2011 Int. Mech. Eng. Congr. and Exp., IMECE2011 November 11-17, 2011, Denver, Colorado, USA,IMECE2011-63057.
  • (5) Hiroshi Hosaka, Yoshinori Oonish, Yuki Tajima : High-power Vibration Generator Using Gyroscopic Effect, Sens. Mater., 31,11,p.3655–3668 (2019).
    ※ダウンロードはこちら(SAM2019_2296.pdf)をクリック。
  • (6) Hiroshi Hosaka, Yuki Tajima : Analytical and Experimental Study on Gyroscopic Power Generator with Power Feedback, Sens. Mater., 32, 7 (2020) 2551–2567.
    ※ダウンロードはこちら(SAM2020_2846.pdf)からダウンロードできます.
  • (7) Aya Watanabe, Ryousuke Yuyama, Hiroshi Hosaka, Akira Yamashita : Fundamental Study on Friction-Driven Gyroscopic Power Generator Works Under Arbitrary Vibration, Proc. ASME 2019 Int. Mech. Eng. Congr. and Exp. IMECE2019, November 11-14, 2019, Salt Lake City, UT, USA,IMECE2019-10474

関係会社について

ここに掲載しているジャイロ発電機は、精技金型株式会社で製作しています。