研究内容

東京大学保坂研究室では、高出力な振動発電機を開発しています。
回転体を振動させ、ジャイロ効果を使うことで、1Hz程度の低周波振動から、1W以上を発電します。

ジャイロ発電機とは

従来の振動発電

環境振動を使う発電機は古くから商品化されています。その代表は英国のベンチャー企業で開発された、鉄道車両の軸受振動による発電機です。こぶし大で20mWを発電します。

人体の振動を使ったものでは、腕時計に内蔵されたセイコーキネティックがあります。平均発電量は10μWです。日常動作での腕のパワーは10W程度ですので、発電効率は10の-6乗です。

電磁誘導型発電機の出力比較

従来の振動発電では、低周波振動での出力が小さいことが問題でした。この解決のために、ジャイロ効果を使った振動発電機が研究されています。この図は、従来型とジャイロ型の発電量の理論値を示したものです。従来型では、おもりが入力振動と同じ周波数で振動する単振動を用います。振り子と同じです。その場合の発電量は、共振周波数で最大となり、発電パワーは周波数の3乗に比例します。一方ジャイロ型では、おもりを高速で自転させ、おもりに傾斜振動を加えます。発電パワーは周波数の2乗と自転速度に比例します。振動周波数が低くても、自転速度を上げれば、いくらでも発電量が増大します。単振動型とジャイロ型の発電量の比は、振動周波数/自転角速度/2となります。人体の振動や海洋波では周波数が1Hz程度です。おもりの自転は、模型用モータを使っても3000rpm=50Hz程度が出せます。その場合は、発電量の比は25倍となります。つまり低周波振動では、ジャイロ型は単振動型の数十倍の出力が得られます。

ジャイロ発電機の種類

ジャイロ発電機には、フライホイールの自転方式に、モータによるものと摩擦によるものがあります。両者とも、振動を加えると自転速度が自然に増大するという性質があります。本研究室では両者を研究しています。

モータ自転型発電機

モータ自転型の増速原理

この図はモータ自転型の増速原理です。①自転の初速度を与えます。これはx軸回りの回転です。②外部から発電機全体に傾斜振動を与えます。これはy軸回りの回転です。③すると,ジャイロ効果によって歳差振動が発生します。これはz軸回りの回転です。④歯車で増速します。⑤永久磁石を回転し、電磁誘導によりコイルに発電します。⑥整流します。⑦昇圧します。⑧自転モータに電力を帰還します。すると、自転速度が増大し、歳差振動が増大し、誘導電圧が増大するという正の帰還となり、自転速度は指数関数的に増大します。⑨自転速度が十分に高まったら、外部に出力します。

電力フィードバックの問題

電力をフィードバックすれば、自転が無限に増大する訳ではありません。自転速度が増大すると、自転モータの逆起電圧が増大します。それが発電電圧と等しくなると、電流が流れなくます。そこで、FB電圧を昇圧します。昇圧器はトランスですので、エネルギを消費しません。しかし昇圧を行っても自転速度には上限があります。昇圧回路では、昇圧比に比例して入力電流が増大するため、発電コイルの抵抗による電圧降下が大きくなり、昇圧回路の入力電圧が下がってしまうからです。そのため昇圧比は5倍程度が上限です。これが自転速度の上限を決定します。

モータ自転型1.8W実験機

私たちが最初に開発したモータ自転型ジャイロ発電機の実験機です。この発電機は1.8Wを発電します。フライホイールの直径は100mm、材料はタングステン合金、大きさは卓上サイズです。ジャイロには死点があり、自転軸と入力軸が平行になるとジャイロ効果が消失します。また両者が直角のときにジャイロ効果が最大となります。フライホイールが自由な状態では、平行位置が安定平衡点、直角位置が不安定平衡点になり、徐々に自転軸が死点に近づき、歳差振動が止まってしまいます。そこで、直角位置を安定平衡点とするため、歳差軸にねじりばねが取り付けてあります。これにより、フライホイールは常にジャイロ効果最大の位置で振動します。

定速自転時の発電

定速自転時の発電特性です。外部電源によりフライホイールを一定速度で自転させています。自転速度は500 rpm、入力の傾斜角振幅は17.7 deg、振動周波数は2.5 Hzです。計算では平均1.8 W、実験では平均1.87 Wを発電しました。計算には、ジャイロ効果と発電モータ特性を含めたシミュレータを開発しました。実験で振動振幅が変動しているのは、手動で加振したためです。自転モータの駆動に要する消費電力は 84.6 mWでした。これを差し引いた正味発電量は1.8Wです。

発電電力の帰還による自転増速

発電電力の帰還による自転増速です。時間とともに自転速度が増大していることが分かります。昇圧比を1.0から1.6に増大させると、増速の速度も増加します。しかし昇圧比5.0では失速しています。これは、昇圧比が高すぎ、自転モータの電流が低下して自転モータの駆動トルクが摩擦トルク以下となったためです。また、可変昇圧は、昇圧比を回転数に応じて最適に変化させた場合です。この場合の自転増速が最大となっています。この実験では、フライホイールはアルミ製です。また計算では、帰還回路の特性を含めたシミュレータを開発しています。

可変昇圧における昇圧比と運動エネルギ

可変昇圧における昇圧比と自転の運動エネルギです。時間とともに運動エネルギが増大しています。このエネルギは発電パワーの積算値なので、傾きから発電量が推定でき、約0.1Wです。発電量が定速回転の場合より小さい理由は、フライホイールにアルミを用いたことと、歯車の増速比を下げたためとです。また、昇圧比は時間とともに増大しています。これは、自転速度が高いほど逆起電圧が高くなるため、高い入力電圧を必要とするためです。実験で昇圧比が下がっている部分があります。これは、入力振動を手動で与えたため、一時的に加振振幅が低下したためです。

発電機の小型化

モータ自転型を手のひらサイズに小型化した発電機です。自転モータをフライホイールに内蔵し、一体化しました。また、ジンバルとステータが一体となっています。これにより、自転モータの占有体積を実効的にゼロにしました。フライホイール直径は70mmです。

実験、計算結果

小型発電機の実験、計算結果です。外部電源により一定速度で自転させています。発電電圧、電力ともに実験と計算はよく一致しています。電圧が0Vで停止する理由は、内ジンバルの振幅が大きくなると、外ジンバルに当たり、歳差が停止するためです。平均電力は、計算で0.4 W、実験で0.393 Wです。発電量0.393 Wから自転モータの消費電力0.289 Wを引いた正味出力は0.104Wです。

ブイ用大型発電機

ブイ用の大型発電機です。フライホイールの直径300mm、0.5Hzの振動で4Wを発電します。軽量化のため、フライホイールは肉抜きをしています。発電モータは、上下に2個ずつ合計4個装着しています。

摩擦自転型発電機

摩擦自転型

摩擦自転型の回転原理を説明します。基本原理はダイナビーという運動用具と同じです。ダイナビーは、 Mishlerによって1973年に特許が出された古い技術です。手と同期した旋回と高速の自転を組み合わせた3次元の回転を行います。

ダイナビーの動作は、例えばyamagasusumuさんの動画をご参考下さい。
リンク:https://www.youtube.com/watch?time_continue=89&v=U5wNUfAHEcU&feature=emb_title
※外部サイトへジャンプします

ダイナビー型発電機(他機関の開発)

0.1Wを発電.入力振動が歳差回転と同期することが必要

摩擦自転型の増速原理

私たちの摩擦自転型発電機は、任意の振動で発電します。増速原理は以下です。①フライホイールに自転の初速度を与えます。x軸回りの回転です。②全体に傾斜振動を与えます。y軸回りの回転です。これがエネルギ源となります。③ジャイロ効果により歳差回転が発生します。z軸回りの回転です。④自転軸が摩擦によりトラック上を転がります。トラックはドーナツ状の輪で、上下にあり、軸の両端は別々のトラックに当たります。摩擦力は自転と同じ向きであり、自転が増速されます。ダイナビーと異なるのは、フライホイールがジンバルと玉軸受で支えられており、歳差や自転の摩擦が非常に小さいことです。さらに、歳差軸にばねがあり、フライホイールは振動的に歳差回転することです。

任意の振動で回転する摩擦自転発電機

 任意の振動で増速する仕組みを詳しく説明します。

 図1に示すように、トラックをA,B,C,Dとします。トラックは直線でも円弧でも構いません。フライホイールが、右から見て、時計回り(CW)に回転しています。

 図2(a)は、トラックが反時計回り(CCW)に回転する場合です。このとき、トラックAが自転軸の左側と、トラックDが右側と接し、フライホイールにCCWのトルクを加えます。すると、ジャイロ効果により、フライホイールは、図のように歳差回転を行います。すると、図2(b)に示すように、自転軸はトラックD上を右に進みます。すると、トラックから自転軸に左向きの摩擦力が働き、自転軸をCWに回転します。この向きは、元の自転と同じなので、自転が増速します。トラックAからも自転軸をCWに回転するトルクが働きます。

 図3(a)は、トラックがCWに回転する場合です。このとき、トラックBが自転軸の左側と、トラックCが右側と接し、フライホイールにCWのトルクを加えます。すると、ジャイロ効果により、フライホイールは、図のように、図2とは逆方向の歳差回転を行います。すると、図3(b)に示すように、自転軸はトラックAの下面を左に進みます。すると、トラックから自転軸に右向きの摩擦力が働き、自転軸をCWに回転します、この向きは、元の自転と同じなので、自転が増速します、トラックBからも自転軸をCWに回転するトルクが働きます。以上により、トラックの傾斜回転がどちら向きでも、自転軸には増速のトルクが働きます。

 このような動作は、従来のダイナビーでも一時的には可能でした。しかし従来は、傾斜の反転が数回起こると失速しました。その原因は、摩擦による運動エネルギの損失にありました。歳差が反転する際、トラックと自転軸の間に滑りが起こり、自転速度が低下します。次の反転までに、低下分以上の増速がないと失速します。従来は自転と歳差の回転摩擦が大きく、増速がゆっくりでした。私たちは、3次元の回転軸を3つに分解し、それぞれに玉軸受を用いることで摩擦を低減しました。この結果、増速が速くなり、任意の振動で増速するようになりました。

摩擦自転・直線トラック型

直線トラック型の試作機です。直線トラックは製作が容易です。この試作機は、平均4Hz、20degの不規則振動により、2000rpmで自転し、1.6Wを発電します。小型化のため、発電機をフライホイールに内蔵しています。

摩擦自転・円弧トラック型

円弧トラック型の試作機です。歳差角を大きくとれるので、低周波の振動でも発電します。人体装着用は、 フライホイールφ 70、振動1.7Hz、発電1.5Wです。ジンバルを改造して、小型化した発電機も製作中です。大きなサイズのブイ用は、φ300,0.5Hz で3Wを発電します。

ジャイロ発電の応用

ジャイロ発電の応用(構想)①

ジャイロ発電の応用は2つ分野を想定しています。第1は観測用ブイです。海表面で使用きるエネルギには、太陽光、風力、波力があり、エネルギ密度では、波力が最大です。しかし海洋波は周波数が0.2~0.5Hzと低いため、従来の振動発電は利用できません。そこでジャイロ発電の応用が始まりました。欧州では、発電所として利用する長さ10m以上の発電機が研究されています。私たちは、より小型の発電機を目指しています。直径60cm程度のブイに搭載します。2つの発電機を検討中です。

 第1は,係留観測ブイです。沿岸のいけすや定置網を監視します。発電機はモータ自転型、外形φ600で0.5Hzで10Wを発電します。海洋波エネルギを電力に変換し、魚探、センサー(水温,塩分)で海中を監視し、地上波通信でデータを送信します。第2は漂流観測ブイです。遠洋で使用し、EEZ境界での魚群の動き、公海での気象観測に利用します。発電機はモータ自転型、2自由度、外形φ800で、0.2Hz、10Wを発電します。センサの他、衛星通信を行います。

ジャイロ型発電機の応用(構想)②

ジャイロ発電の応用の第2は空調ウェアです。人体やリュックに固定した発電機でファンを回し、汗を気化したり、空気を交換します。後者は、感染症対策の空調フェイスシールドです。これらは、1Wで駆動できるので、小型化に有利な摩擦自転型発電機を使用します。

ジャイロ発電に関する主な研究発表

【モータ自転型】

  • 1) Hiroshi Hosaka, Yuki Tajima : Analytical and Experimental Study on Gyroscopic Power Generator with Power Feedback, Sens. Mater., 32, 7 (2020) 2551–2567
  • 2) Hiroshi Hosaka, Yoshinori Oonish, Yuki Tajima : High-power Vibration Generator Using Gyroscopic Effect, Sens. Mater., 31,11, (2019)
  • 3) 田島雄貴,保坂寛:モータ自転型ジャイロ発電機の研究―発電電力の帰還による自転増速―,精密工学会誌,85,7,(2019)
  • 4) Akio Toyoshima, Hiroshi Hosaka, Akira Yamashita : Development of Small-Sized Motor-Driven Gyroscopic Power Generator Works Under Low-Frequency Vibration, Proc. ASME 2019 Int. Mech. Eng. Congr. and Exp. IMECE2019, November 11-14, 2019, Salt Lake City, UT, USA,IMECE2019-11115
  • 5) 大西吉徳,保坂寛,田島雄貴:モータ自転型ジャイロ発電機の研究,一定回転時の発電特性,精密工学会誌,84,10,(2018)

摩擦自転型

  • 1) Aya Watanabe, Ryousuke Yuyama, Hiroshi Hosaka, Akira Yamashita : Fundamental Study on Friction-Driven Gyroscopic Power Generator Works Under Arbitrary Vibration, Proc. ASME 2019 Int. Mech. Eng. Congr. and Exp. IMECE2019, November 11-14, 2019, Salt Lake City, UT, USA,IMECE2019-10474
  • 2) 特開2019-146477,保坂寛,池田泰久,歳差回転機構及び発電装置,東京大学

ダイナビー型

  • 1) 高橋智幸,岩崎淳,保坂寛 : ジャイロ型発電機の受動制御,日本ロボット学会誌 29, 8, p.661-666, (2011)
  • 2) Yohei Kamiya, Hiroshi Hosaka : Self Activation of the Gyroscopic Power Generator, Proc. ASME 2011 Int. Mech. Eng. Congr. and Exp., IMECE2011 November 11-17, 2011, Denver, Colorado, USA,IMECE2011-63057.
  • 3) 吉川 覚, 岩崎 淳, 岸本 幹史, 保坂 寛, 佐々木 健:ジャイロ型振動発電機の過渡応答解析,精密工学会誌,76,2,p.238-242, (2010)
  • 4) 石井 智裕, 後藤 裕治, 小川 達也, 保坂 寛:ジャイロ型振動発電機の研究,精密工学会誌,74,7, p.764-768, (2008)